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小野真由美さん(元ホッケー女子日本代表・公益社団法人日本ホッケー協会 理事)
投稿日 2026.03.30

指導者というものはただスキルを教えるだけでなく、選手の人生を預かるもの
選手の人生がより良いものになるために、絶対的に必要な基礎知識として学んで欲しい

不妊治療の経験を通して、自身の身体と向き合うことの大切さに気づいたというホッケー元日本代表の小野さん。
現役時代を振り返りながら、「もっと早く知っていれば」と感じた想いが、女子アスリートのコンディショニングを学ぶきっかけになりました。
これからは指導者として次世代の育成に関わる中で、スキルだけでなく選手一人ひとりの人生に寄り添うことの重要性を実感しています。
今回のインタビューでは、1252エキスパート検定の受検のきっかけや、トップアスリートの月経の悩みや対策、長く日本代表として活躍したからこそ感じた環境や心境の変化についてお話しいただきました。

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ー1252エキスパート検定を受検されたきっかけを教えてください。

小野さん:
1252エキスパート検定があるというのを知り、1252プロジェクトのInstagramで関連する情報を得て、受けてみたいなと思いました。
私は、3年半ぐらい不妊治療をして、なかなか子供が授からなかった経験から、女性の身でありながら自分に目を向けるのが遅かったと感じていました。
不妊治療はすごくしんどくて辛くて、もうやめたいと思うことも何度もあって、選手のときにもっと女性のコンディショニングに目を向けていれば、こんなに辛い思いをせずに子どもを授かることができたかもしれないと思ったことが、一番のきっかけでした。
今後指導者になろうと考えているのですが、指導者というものはただスキルを教えるだけでなく、選手の人生を預かるものと捉えているので、その選手の人生がより良いものになるために、しっかり選手とコミュニケーションをとっていきたいと思っています。そのときに正しい知識が必要だと思い、受検すると決めました。
合格して資格が取れたら、自分にとってさらにプラスになると思いました。

ー今回、検定受検を通して、印象的な学びや良かった点を教えてください。

小野さん:
HPの合格者インタビューなどで、男性の方も結構受検されているのを見て、世の中の流れが変わってきたなと感じました。
指導者になったときに、選手一人一人の生理痛の重さが違うことへの対応の仕方や、ドーピングなど競技以外のことへの関心の向け方が難しいと思っていましたが、1252エキスパート検定テキストブックではコンパクトにわかりやすくまとまっていました。簡単に大事な知識が得られるという点で非常に良かったです。
私は体育学部出身なので、内容について驚いたことは特にありませんでしたが、改めて学び直すことができました。一つ一つの分野を学ぶとなったら大変な量になってしまうところ、重要な部分だけが一冊にまとまっているというのがすごく良いと思いました。

——2016年リオオリンピック後の引退から2020年東京オリンピックを目指しての復帰、その先の女性としての人生を考えてピルを使うことを決めました——

ー競技生活の中で、月経に対する悩みや不調はありましたか?

小野さん:
生理痛も重い方ではなく、減量のスポーツでもないので、比較的大丈夫でしたが、高校時代にタンポンを使うか使わないかで悩みました。ナプキンだと蒸れたりすれたりするし、タンポンだと怖いし、という悩みを親に話すこともできずに一人で抱えていました。今は生理用品やパンツも改良されていますが、昔は結構悩んでいた人が多かったのではないかなと思います。

ー日本代表になってから、月経についての悩みや課題を相談した経験などを教えてください。

小野さん:
日本代表になってから、月経についての話を婦人科の先生に聞く機会がありました。
私の場合は、37日38日など1ヶ月以上間隔が開いて月経がくるんですが、35日以上の間隔があることが異常だと知らずにいました。JISS(国立スポーツ科学センター)のクリニックに通うようになってから、「あ、この間隔はおかしかったんだ」と気づきました。
2016年のリオオリンピック後に一度引退して、2017年に復帰を決めたのが、32~33歳ごろでした。次の2020年の東京オリンピックを目指すとなったら、私はそのとき何歳なんだ?と考えて、JISSの能瀬先生に相談しました。
いずれは子どもを産みたいという気持ちもあり、生理痛を抑える目的ではなく、生理を止める目的で、先生に相談してピルを使用することに決め、さまざまなピルを試しました。
30歳を超えると、多くの選手たちは、何年後の自分は結婚できるかな?出産はいつごろかな?と、男性とは違って女性はどうしても競技をストップしなくてはいけない時がくるので、引退を見据えて、結婚や子どもについて考えるようになって。
私も、競技を続けることと出産について考えた時に、じゃあピルを使って生理を止めようと決めました。

ーピルを使用するにあたって、副作用やパフォーマンスへの影響はありましたか?

小野さん:
最初のピルが合わなくて、普通に生理が来てしまって、次に試したピルがマッチしたので、飲み続けました。 副作用としては、体重が増えるというか、むくんでいる感じがあるときはありました。ホッケーは体重別競技ではないので、その点で大きな影響はありませんでしたが、体重別競技の場合は大変だろうなと思っていました。

ーチーム内でピルを使う選手は多かったですか?

小野さん:
トラブルを抱えていない人は関心がないので、あまり使っていませんでした。ただ、経血の量が多いのが嫌だったり、生理痛が強い子はピルに関心を持っていて、私によく聞きに来ていました。
私は東京に住んでいたので、JISSで産婦人科に定期的にかかることができきていて、産婦人科が身近に感じられていましたが、地方に住んでいる選手にとっては、やはりアスリートに理解のある産婦人科がなかったり、行きづらいのかなと思うこともありました。

ー日本代表時代にサポート体制はありましたか‎‎?

小野さん:
代表では各自対応という感じでした。ドーピングに関することは年に一回必ず受けなさいという強制的なものがありましたが、月経のことに関してのサポートはチーム内ではあまりありませんでした。どちらかというと、個人個人でどうぞという感じでした。
私は17歳から35歳までと、長く日本代表にいたので、時代の移り変わりをみてきました。
昔は先輩と生理について話すということはほとんどありませんでしたが、自分が年長者になって来た頃には月経の話や、スポーツのパンツを開発したのでみてもらえますか?というような話が出るようになってきました。

ー学生時代にチーム内で生理の悩みを共有することや、指導者に相談することはありましたか?‎‎

小野さん:
生理痛がひどいから休むとか、タンポンが楽だよねという話は高校時代にしていました。キャプテンだったので、チームメイトから話はよく聞いていました。ただ、監督や先生から月経についての授業や話を聞く機会はありませんでした。
相談しにくいとは思っていませんでしたが、男性の指導者に相談することは意味がないと思っていました。当時の先生は優しい方で、休みますと言えば休ませてくれましたが、生理痛についてはわからないだろうなあと思っていました。

ー昔と比べて月経の悩みを相談しやすい環境になっていますか

‎‎小野さん:
昔は月経の話はタブーというかクローズされていて話す環境はあまりなかったと思いますが、今は中学や高校の授業でも扱われていますし、SNSが普及している中で、子どもたちも好きなアスリートが女性のコンディショニングについて発信しているのを見て、関心を持っていると思うので、月経の悩みを相談するハードルは下がっているんじゃないかと思います。
相談する環境を整えられているかというと、そこまでにはまだ至っていないなと感じています。

ー指導されている選手の年齢の幅はどのくらいですか

小野さん:
幼児からシニア世代の方まで指導しています。知人のスペインのサッカー指導者のお話では、スペインでは子どもから大人、障がいのある方、女性まですべて網羅して指導者と呼べるという文化があるそうです。「一つのカテゴリーしか教えたことがありません」では、通用しないそうです。
これから先、イベントなどを実施する際には様々な方が参加される思うので、全てのカテゴリーを網羅しておきたいと思っています。
今後は、男女ともにホッケーの世界最高峰であるオランダに行きたいと思っています。クラブチームでスキルも学びに行くのですが、日本の部活動とは違う、ヨーロッパのようにクラブ化されたシステムや普及の方法を学んでこようと思っています。
クラブ化されたシステムでは、カテゴリーにあったコンディショニングの勉強もしているので、そのようなスキル以外の部分についても今後の選手に提供できるように学びたいと思っています。

——指導する際には、休める環境であること、休むことが悪いことではないということを伝えるようにしています
生理痛で休む選手がいても、まずは言ってきてくれてありがとうという気持ちが一番大きいです——

ー女子アスリートの月経の悩みや課題の解決のために、‎指導者として行っている対策があったら教えてください。‎

小野さん:
ホッケー協会のアスリート委員長として、さくらジャパンの選手に女性コンディショニング研修を実施し、トップの選手に対しては課題や悩みについて考える場を提供しています。
高校生や大学生を指導する際には、休むことに対する罪悪感を払拭する環境づくりが一番大事だと考えています。
生理痛が全くない人や辛くない人、とてもひどい生理痛の人と人それぞれで、全く辛くない人からしたら、「なんで生理ぐらいで休むの?」と思ってしまうこともあると思います。休める環境であること、休むことが悪いことではないということを伝えるようにしています。
生理痛で休む選手がいても、まずは言ってきてくれてありがとうという気持ちが一番大きいです。
症状は人それぞれ違うので、できるかできないかを自分でしっかりと判断して、トレーニングするかを決めなさい、ただし無理はしないでほしいということをチームの最初のミーティングで伝えています。
指導の際に、いつもと様子がちがうなとか、元気がないなとか、選手の様子を観察してしっかりコミュニケーションを取って、こちらから「今日はやめときなさい」と伝えるようにしているので、選手から言いにくい時は指導者から伝えるということも大事かなと思っています。
高校生に関しては保護者にもお子さんの体調管理もしっかり見ていただきたいと伝えなくてはいけないと思っているのですが、私のような外部指導者という立場では、そこまで踏み込んでいくことができないのがもどかしいです。

ー指導している子たちから相談を受けることはありますか

小野さん:
子どもたちからも保護者の方からもどちらもあります。
子どもたちからは、生理がひどくて練習を休みたいけど、他の子から休んでいると思われたくないから頑張ってしまうという相談があります。
折を見て、競技とは切り離して、女の子である以上は月経について知っていて欲しいから、真剣な話をするよと、コート外でミーティングをします。みんなの人生にとってとても大事なことだからね、ということを伝えるようにしています。
保護者の方には、自分の辛かった経験談やピルの使用についてや、ナプキン、タンポンのことなどをお話しすることはよくあります。

——本当に選手も指導者も、まずテキストを買ってほしい、まず受検してほしいって言いたいです。——

ー1252エキスパート検定の受検経験をどのように生かしていきたいですか‎‎

小野さん:
まずは検定を受けてほしいと言いたいです。
ホッケー協会としても、指導者の皆さんに受けていただきたいと思っています。
指導者がスキルだけを教えたい人であれば関心を持たないでしょうけれど、検定を通して女子アスリートのコンディショニングについて学んで、選手のことを理解するという意味で多くの人に検定を受けてほしいと思っています。
選手のことを理解しないと、その選手のパフォーマンスをあげることはできないので、指導者が知識をつけることの大切さを伝えていきたいです。
そして、選手自身にも、自分を知ればもっとパフォーマンスが上がるということを伝えていきたいです。
特に女性に関しては、生理もそうですが、貧血が怖いので、食事の中で取り入れたらいいものやその取り方など、基本的な知識からしっかり自分で学んで、自分で実践していって欲しいと思っています。
ですので、本当に選手も指導者も、まずテキストを買ってほしい、まず受検してほしいって言いたいです。

ー検定受検を考えている皆様にメッセージをお願いします‎‎

小野さん:
特に小中高を教えている方々にはぜひ受けていただきたいです。
幼い子たちは悩んでいる人がたくさんいると思うので、選手の人生を預かっていると思って、絶対的に必要な基礎知識として学んでいただけたらと思います。
プロフィールにこの資格を持っていると書かれていれば、保護者の方にも、きちんと知識のある人が教えているんだと安心してもらえると思います。
自分のためにもぜひ検定を受けてください。

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「もっと早く知っていれば」――その実感から始まった学びは、今、次の世代へとつながっています。
選手にも指導者にも、まずは正しい知識を学ぶことから。その一歩が、選手の可能性を広げ、未来を守ることにつながります。1252エキスパート検定は、女子アスリートに関わるすべての人にとって、大切なヒントとなるはずです。

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<小野真由美さんプロフィール>
元ホッケー女子日本代表
公益社団法人日本ホッケー協会 理事

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