女子アスリートの体調不良に気づいている。でも、どう声をかければいいか不安を感じている——。
そんなジレンマを、指導に関わる多くの方が抱えていることが、このたびの調査から見えてきました。一般社団法人スポーツを止めるなは2026年6月〜7月、「1252公認 女子アスリートコンディショニングエキスパート検定(以下、1252エキスパート検定)」の合格者154名を対象にアンケート調査を実施しました。
本記事では、調査結果から見えてくる現場のリアルをデータとともにお伝えします。
指導に関わる方の約8割が「踏み込めなかった」経験を持つ
調査で見えてきたのは、指導現場に潜む「コミュニケーションの壁」です。
女子選手のパフォーマンス低下や体調不良の裏に、生理などの女性特有のコンディションが影響していると感じつつも、本人に率直に確認できなかった、あるいは躊躇した経験があると答えた人は、全体の76.7%(117名/154名)にのぼりました。性別でみると、男性では80.6%(75名/93名)と8割を超え、女性の70.0%(42名/60名)を上回っています。

質問「女子選手のパフォーマンス低下に生理などの女性特有のコンディションが影響していると感じつつも、踏み込んで確認できなかった経験は?」の回答
● 踏み込めなかった(『よくある』・『たまにある』)経験あり(全体):76.7%(117名/154名)
● うち男性:80.6%(75名/93名)
● うち女性:70.0%(42名/60名)
踏み込めなかった理由として最も多かったのは「どこまで深く聞いていいのか、距離感がわからなかった」(37.3%/57名)。次いで「ハラスメントと捉えられないかという不安があった」(22.1%/34名)が続きます。

質問「1252エキスパート検定を受検するより以前において、女子選手の生理や特有のコンディションについて触れる際、最も大きなハードルは何でしたか?」の回答
特に男性回答者に絞ると、男性全体の26.9%(25名/93名)がハラスメントへの不安を感じていたことが示されました。一方、女性回答者が「男性指導者はこう感じているだろう」と推測した割合は15.0%にとどまっており、男女間で認識にギャップがある可能性がうかがえます。
つまり、指導に関わる方々は周囲が思うよりもずっと強く、「踏み込むことへの恐れ」を感じている可能性があるのです。
知識を得ることで、現場に変化が生まれる
このジレンマには解決の糸口があるかもしれません。調査では、正しい知識を得た指導者の現場での変化も示されています。
受検後に女性アスリートへの指導に対する自信が「とてもついた」「少しついた」と答えた人は87.0%(134名/154名)。9割近くの合格者が、受検を通じて自信を深めています。

質問「検定受検後、女性アスリートへの指導に対する自信は変化しましたか?」の回答
具体的な行動変化(複数回答)としては、「選手の体調変化への対応が変わった」(40.9%/63名)が最多で、「選手・生徒と月経について話す機会が増えた」(33.1%/51名)、「保護者への説明がしやすくなった・連携が取れるようになった」(27.3%/42名)と続きます。さらに「ハラスメントへの過度な不安が消え、フラットに体調を確認できるようになった」と答えた合格者が19.5%(30名)にのぼっています。

質問「受検後、現場での行動に変化はありましたか?※複数回答可」の回答
● 選手の体調変化への対応が変わった:40.9%
● 選手・生徒と月経について話す機会が増えた:33.1%
● ハラスメントへの不安が消えフラットに確認できるようになった:19.5%
ハラスメントへの不安を受検前に抱えていた25名に絞ったクロス分析では、受検後に84.0%(21名)が何らかの行動変化を実感し、うち28.0%(7名)が「フラットに体調を確認できるようになった」と答えています。知識を得ることが「踏み込む根拠」として働く可能性が、このデータからは示唆されます。
また「自信がついた」群(134名)のうち62.7%がチームや選手との関係に変化を実感しているのに対し、「自信が変わらない」群(15名)では20.0%にとどまっています。知識→自信→現場の変化という関連がみられます。
受検後、9割近くが何らかの行動変化を実感
受検前の課題感と受検後の行動変化のクロス分析では、興味深い結果が示されています。
受検前に「明確な悩みがあった」層(33名)の87.9%、「なんとなく課題感はあったが言語化できていなかった」層(105名)の89.5%が、受検後に何らかの行動変化を実感しています。注目したいのは、「特に悩んでいなかった」層(16名)でも75.0%が変化を感じているという点です。検定の学びは課題の有無にかかわらず現場での行動を変えるきっかけとなり得ることが伺え、「まだ困っていない人」にとっても有効だという可能性をうかがえる結果となりました。
● 受検前に明確な悩みがあり、受検後に行動変化があった:87.9%
● 課題感はあり言語化できていなかったが、行動変化があった:89.5%
● 特に悩んでいなかったが、行動変化があった:75.0%
「目先の勝利」が、選手の将来を脅かしている
調査では、選手の引退後の健康に関するデータも示されています。
「女性の体のメカニズムを学ぶことは引退後の妊娠・出産や長期的な健康のために『非常に重要』『やや重要』」と答えた人は99.4%(153名/154名)にのぼります。一方で、「目先のパフォーマンス(試合での勝利や成績など)を優先するあまり、無月経の放置など、女子選手の将来の健康への配慮や危機感が不足していると感じたことが『よくある』『たまにある』」と答えた指導者は82.5%(126名/154名)でした。
重要性は理解している。しかし、現場では目先の勝利のために軽視されがちである——という強いジレンマが、このデータからはうかがえます。

質問「女性の体のメカニズム等を学ぶことは、現役時代のパフォーマンス向上だけでなく、選手の「引退後の人生(妊娠・出産や長期的な健康)」を守るためにどの程度重要だと感じますか?」の回答

質問「目の前の「競技パフォーマンス」を優先するあまり、無月経の放置など、女子選手の「将来の健康(引退後の後遺症や、妊娠・出産など)」に対する配慮や危機感が不足していると感じたことはありますか?」の回答
● 引退後の健康のためにも学ぶことが「非常に重要」「やや重要」:99.4%
● 目先のパフォーマンス(試合での勝利や成績など)を優先するあまり、将来の健康への配慮が不足していると感じたことが「よくある」「たまにある」:82.5%
立場によって危機感に差がある可能性も示されています。医療関係者(46名)の91.3%、トレーナー・フィジカルコーチ(39名)の87.2%が危機感を感じているのに対し、学校部活の指導者・コーチ(42名)では69.0%にとどまっています。身体に日常的に関わる職種ほど実感が高く、だからこそ指導者への体系的な知識提供の重要性が示唆されます。

立場別×将来の健康への危機感(「ご自身の現在の主な立場を教えてください※複数回答可」の立場ごとで「競技パフォーマンス優先により、女子選手の将来の健康への配慮・危機感が不足していると感じたことは?」で「よくある」「たまにある」を選択した率)
「共通言語」を考えるきっかけに
今回の調査から考えられるのは、指導現場に「共通言語」が不足している可能性です。
女子選手の体調に気づいていても、どう声をかければいいか不安を感じている。ハラスメントへの恐れから踏み込めない。その一方で、正しい知識を持った指導者は自信を深め、行動が変わり、選手との関係性も変化しています。
1252エキスパート検定は、そのための「共通言語」を探す・考えるきっかけになる検定です。指導者・医療関係者・保護者・アスリート本人まで、女子スポーツに関わるすべての人に受検していただける設計になっています。
第6回1252エキスパート検定は2026年9月1日(火)〜14日(月)にオンラインで実施します。申込期限は2026年8月21日(金)です。
【調査概要】
実施主体:一般社団法人スポーツを止めるな
調査期間:2026年6月29日〜7月13日
有効回答:154名(1252エキスパート検定合格者)
調査方法:Googleフォームによるオンラインアンケート
※本調査は合格者ご本人による満足度・自己評価アンケートとして実施したものです。

